石井 建
第21回あわじ感染と免疫国際フォーラム 大会長
(東京大学医科学研究所 教授)
2020年以降、新型コロナウイルスによるパンデミックは世界を一変させました。研究分野、特にmRNAワクチンや抗体医薬などの治療薬の開発は目を見張る速さと規模であり、一種の革命が起きたと言えます。その波及効果は分子(学術)から倫理(社会との接点)の研究分野まで広がりを見せ始めており、以前は感染症やワクチンの研究とは無縁だった基礎生物学、医学研究、臨床研究、社会科学分野にも新しい潮流が生まれつつあります。これまでになかった速度、スケールで異分野融合が進み、次なる破壊的イノベーションがおこることが期待され、次にパンデミックが来た時には100日で安全で有効な治療薬やワクチンを世界に届ける、といった高い目標がG7やWHOで掲げられました。
一方日本では、感染症研究の脆弱さや国産ワクチン開発の遅れなどが問題視され、2021年6月に次のパンデミックに備えるべき今後のワクチン開発戦略が閣議決定され、補正予算により2022年AMEDにSCARDAという感染症研究、ワクチン開発の司令塔組織が創設されました。トップレベルの感染症、免疫の基礎研究、臨床研究を行うフラッグシップ拠点、シナジー拠点、サポート機関が採択され、感染症ワクチン、新規モダリティーの開発プロジェクト、アジュバントやデリバリーシステムや非臨床試験のサポートに加え、基礎と臨床開発をつなぐスタートアップ企業、国産ワクチン開発企業などへの支援が強化されました。
本フォーラムは、コロナ禍以前より感染症学・免疫学の領域の垣根を超えて語り合う場として2001年に開始され、2023年で21回を迎えます。この間、細菌学、寄生虫学、ウイルス学、免疫学の研究者が一同に介して議論する場を提供することで、所属学会の垣根を超えたネットワークが形成され、共同研究・共同プロジェクトが発展する重要なプラットフォームとして機能しています。また、本フォーラムは海外の先端研究者を招へいして、英語で開催されており、近隣国を中心に国外の多様な研究機関からも多くの研究者が参加する国際的なフォーラムとなっています。
今年度は主催者の一員である東京大学医科学研究所が中心となり、AMED-SCARDAの各事業と連携することで、感染症、免疫、ワクチン関連の基礎から臨床まで幅広く国内外のトップ研究者に加え、AMED-SCARDAの各拠点の先生方に講演をいただくことになりました。プログラム委員として東大医科研のCoban教授、佐藤教授、反町教授、長谷教授、感染研の明田部長に素晴らしい講演者をご推薦いただき、この場をお借りして感謝申し上げます。
現地で皆様に集まっていただいて講演だけでなく、ポスター発表やコーヒーブレークなどコロナ禍のオンライン会議ではできなかった議論が研究者間で進むことを願ってやみません。そのため、できる限り多くの産学官の感染症、免疫を超えた幅広い研究者を日本全国、世界各国から参加をお願いできれば幸いです。とくに若手研究者の発表枠および交流の場を増やすとともに、国内の若手研究者について旅費支援を行う予定ですので、学生さんや大学院生、医療関係者、企業の若手研究者の皆様にもふるってご参加いただけますと幸いです。秋の軽井沢にて皆様にお会いできるのを楽しみにしております。